■村の鎮守の神様の(1)

“まゆり……”

いつ頃からだろう。時々誰かが私を呼んでいる声が聞こえた。

“まゆり……”

最初は空耳かと思ってた。

“まゆり……”

でもそれは成長するに従ってだんだんとはっきりと聞こえるようになった。気味が悪い……と思わない事もなかったけれど、私は不思議とその声に優しい響きを感じた。

◇ ・ ◇ ・ ◇

そんなある日、どうしてもその声の主が知りたくなり私は行動を起こした。
だいたいの場所は長年呼ばれ続けていて何となくわかっている。村の鎮守の神様を祭ってある、神社からちょっと行った先の森の中の洞窟。大人達からは神様が住んでいるから絶対に行っては行けないと何度も何度も口を酸っぱくして言われていた場所。おそらくそこだろう。

「んっしょ……っと……あっ!」
中に入らないように張っていたもうかなりぼろぼろのしめ縄をまたいで中に入ろうとすると、足がひっかかってぷつりと切れた。まずいとは思ったけれど、後で何とかすればいいかとそのままにして、私は家から持ってきた懐中電灯をつけるとゆっくりと洞窟内を進んだ。

少し入って何もないのがわかるとまた少し……また少し……と奥に進んで行くと行き止まりに突き当たり、緊張していた私は力が抜けた。

何だ。神様がいるとはさすがに思わなかったけれど、何もないじゃない。せいぜい小動物の骨がちょっと散らばっているだけ。

「見当違いだったかな。ここだと思ったんだけど……」
洞窟から出るために後ろを振り向いて通路に光を照らすと、いつの間にか出口に戻る通路を塞ぐように何かがそこにいた。
それはだいたい私と同じぐらいの背丈で横も同じぐらい、うねうねと動く緑の植物の蔓のようなものや、長い幼虫のようなものがいっぱいくっついている生物だった。

「ひっ!」
私はその異形のモノに恐れおののき、足がすくんで動けなくなった。

ガシャン……
懐中電灯が手から滑り落ちて当たりが一気に暗くなる。
「あわわわわわ…」
慌ててそれを拾い、スイッチを入れるけれどカチカチという音がするだけで明かりは灯らない。どうやら落ちた所が悪かったらしく壊れてしまったらしい。これではまともに逃げることすらままならない。どうしたら……

ずるり……

道をふさいでいる生物は薄らぼんやりとだが光を発している事に気づく。そしてそれは私の方に触手を伸ばしながら迫ってきている事にも同時に気づいた。

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