■虫師の森(1)

「はぁ……」
目の前の森を見上げて私は大きくため息を吐く。

村人の間では中に住む虫師の許可がない者が立ち入ると二度と戻って来られないと言われている村はずれにある森。
時折神父様はその森に住む虫師から薬を買っていて、普段はその虫師が教会を訪ねてくるか、神父様が直々に森へ行っていたのだけれど今朝は何故か神父様から私が森の虫師に書簡を届けるように言付かってしまった。

「これを持っていれば何事もなく虫師の元へいけますから」
神父様は麻の小さな袋を私に渡した。

こんな小さな袋が本当に私の身を守ってくれるのだろうか。神父様が無事に森を行き来していることから大丈夫なのだとは思うけれどそれでも不安でならない。

ぎゅっと胸にぶら下げたシンボルを握る。

神様どうか無事に戻って来られますように──


森は入り込む者がいないよう周りを柵で囲まれていて、唯一の出入り口の前には何も知らぬ旅人が間違って森に入り込まないようにと注意書きが書かれた立て看板がある。その入口を通ってしばらくすると森の中に足を踏み入れた。

ざわわ……。
風もないのに木々が揺れる。侵入者にこの森の生物が警戒をしているのだろう。泣きたくなる気持ちを抑えて私は先を急いだ。

時折がさりと頭上で音が聞こえる。
しかし、神父様から渡された袋のおかげなのだろうか、その音の主は様子をうかがっているだけでそれ以上近くに近寄ろうとすることもない。
私はその様子に安堵し足早に先を急いだ。


道は横道のない一本道で心配していた危険に会うこともなく虫師の家が見えた。あまりのあっけなさに気が抜けてしまったほどだ。

虫師というのは様々な虫の事に精通していて、その虫の特性を活かして護衛用の虫を育てたり、虫から出る体液を精製して人の役に立つ薬を作っている人たちだ。だから……この家はそう言った虫が沢山いるはず。

……入り口で書簡を渡してすぐに帰ろう。

◇ ・ ◇ ・ ◇

古びた扉をたたくと出迎えたのは金髪の、私よりも少し年上に見えるぐらいの少年だった。教会に来たときにはフードで顔を隠していたし、私は直接話す機会もなかったから虫師などという職業からくる印象でもっと薄気味悪いおじいさんなのだと思っていた。でも、目の前にいる彼はそのイメージからは限りなく外れている。

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