■エッチな蝋燭(1)

「はい。はーい。わかったから」
萌ちゃんは受話器を置いてため息をついた。

「もう。急に決めたって……メモぐらい置いててくれたらいいのに」
「どうしたの?」
「お母さん達。また旅行だって」
「あ、やっぱり?」

学校から帰ってくるとおばさんがいなくて、リビングの机の上にお金が置いてあったからひょっとしたらって思ったんだけど、やっぱりあれ、夕食と朝食代だったんだ。

「どうする?ご飯。食べに行く?」
「ボク、萌ちゃんのご飯がいいなぁ」
「いつも食べてるのに」
「うん。だってわざわざ外で食べなくても美味しいからね」
「おだてても何も出ないから」
そう言いながらも萌ちゃんは足取り軽やかに台所に向かった。

ピンポーン

あれ?こんな時間に誰だろう?

「誰?」
玄関越しに尋ねると「荷物をお届けに参りました」という返事が返ってきた。

宅配か。

ボクは玄関を開けるとサインをして小さな段ボールを受け取った。

おや?ボク宛だ。誰からだろう。

送り主の欄を見る。

「『藤沢商事』?

何か取り寄せたっけ?

「あ」

藤沢って……思い出した。
AYANO女史からの荷物だ。早いな、もう送ってくれたんだ。
ボクは森村の家に居候をしているから
家の人に見られても困らないようにという配慮なのだろう。


「憲くん。何だったの?」
リビングに荷物を運ぶと調理の途中だった萌ちゃんがキッチンから顔を出した。

「ああ、ボク宛の荷物が届いたんだ」
「何?」
「蝋燭だよ」
「蝋燭?」

ボクが時々おじゃまをしてるSM CHAT。主催者であるAYANO女史はその世界では知らない者がいないぐらい有名な発明家で、今はあまり公の場に出ることもないから伝説の人とまで言われている人だ。そんな彼女が主催をするチャットは他の参加者の体験談を聞いたり、SMに関する相談や、知識のレクチャーがメインなのだけれどボクの目的は別の所にある。彼女のチャットに参加していると時折発明品が公開され、モニター募集などで彼女の貴重な発明品をいち早く見ることが出来るためだ。
それ以外にも薬の事で行き詰まると彼女にアドバイスをもらったりなんてこともしてる。この蝋燭は先日女史の新しい発明品のモニター募集で、サンプルを送ってもらったものだ。

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