■犬が欲しい(2)

「ほら、すごいでしょう?頭の良い犬なんですよ。何しろ元がいい。犬になる前は某社の社長秘書をしていたんですから」
「……すごい。というか犯罪なんじゃないのか?」
「何をおっしゃいます。流れ星の願い事は完璧を求めるのです。そこらにいる野良犬ではお客様の失礼になります。ですから素材の素晴らしいものを完璧な犬に仕立て上げるのです」

いや、そこで胸を張らないでいいから。

「我が社の秘密研究所で完璧な犬になるため耳としっぽを生やしました。完璧を求めて副乳にもしようかと思いましたが前田さまの嗜好とはかけ離れておりましたのでそこは素のままです。嗅覚は神経をいじり犬並みに鋭くなっております。そして我が社の専属調教師により完璧なしつけもすませました。もちろん最初は嫌がりましたがこちらもプロです。前田さまの犬になることがどれほど素晴らしい事か当社極秘洗脳薬を使い完璧に教え込んでおります」

「洗脳薬!?」
「はい。ですので今では犬であることに誇りを持っているのですよ。そうだな?ぽち」
「わんっ」
彼女は一声ほえると無邪気にしっぽを振った。
どうやら彼の言ったことは本当らしい。

「しかし……会社や家の人が心配しているんじゃ……」
「その点も抜かりはございません。彼女は天涯孤独の身の上であることは調査済みです。会社には彼女の声色をまね、田舎にいる母親が倒れ、他にみるものがいないために急遽田舎に戻るからと数日休暇を頂いた後にその母親の症状がことのほか悪く、介護で離れるわけにはいかないために退職をしたいと申しましたところ情に厚い社長さんがすんなりと受理をしてくださいました。住んでいたマンションも引き払い、後は前田さまが飼うだけとなっております」

……聞かなければよかった。

「悪いがやはり受け取れない。まゆだって本当の犬が欲しいと言うに決まっている」
「そうでしょうか?」
「そうだとも!」

こんな犬を飼っているのを知られたら父親が変質者だと近所で後ろ指を指されてしまう。欲しがるわけがない。

「パパ。誰とお話してるの?」

なかなか戻らなかったからだろうかまゆがオレの背中越しに顔を出した。男はそれを見て口端をあげ笑みを浮かべる。

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