■犬が欲しい−その後− ウェイフ作(1)

「おっ、もう3時か」

 家に持ち帰った仕事をやっていた手を止め、時計を見るともう夕方が近い。
 道理で疲れるわけだ。一息吐くために、オレはリビングへ向かった。
 
 ……しかし……

「うっ!」

 しまった、『ぽち』の存在を忘れていた。
 慌ててもう一人の我が家の住人の姿を探すが、見当たらない。
 ……そういえば、友達の家に遊びに行くと言って出かけて行ったのだったな。
 お気に入りのソファの上ですやすやと気持ちよさそうに眠っているのが、不幸中の幸い、というところか。
 彼女を起こさないよう、部屋に戻ろう。

 と、思ったのだが。

「わん! わんわん!」
「うわっ!」

 ……しまった。

「わん!」

 恐る恐る後ろを振り返ると、目を覚ました『ぽち』がオレのすぐ後ろに駆け寄ってきていた。

『あそぼ?』

 きらきらと輝く瞳がオレを見上げている。ピンと立った耳、千切れそうな勢いでブンブンと振られている尻尾も、同じ想いをオレに訴えてきた。
 けれど、『躾け』がきちんとされているせいか、飛びついては来ない。

 ……さて、どうしたもんか。

 いつもなら真っ先に遊び相手になってやる娘のまゆは今は居ない。
 となると、オレが遊んでやるしかないのだが……

「くぅ〜ん」
「わぁぁっ」

 思わず目を両手で覆った。いかん、これは刺激が強すぎる。
 『ぽち』にしてみれば、飼い主に対する服従を示しただけ、なんだろうが……

 ……あぁ、これが本当の『犬』だったら、こんなに悩む必要なんてないのに。


 『ぽち』は普通の犬ではない。
 『犬が欲しい』流れ星に祈ったまゆの願いが聞き届けられたと言って怪しげな男達が彼女を連れてきたのはつい先日のこと。
 いきなり犬耳と尻尾をつけた裸の女性を連れてきて、『犬』だと抜かしたのだ。
 当然、オレは引き取るつもりなどなかったが、まゆが彼女を気に入ってしまい、彼女を飼うことになった。
 
 正直、どういうことになるか気が気じゃなかったが、心配は杞憂に終わった。
 本来の性格とも相まってか、賢くて優しい彼女に、まゆはあっという間に懐いた。
 わんちゃんわんちゃんとじゃれてくるまゆに彼女も懐き、仕事で帰りの遅いオレの代わりにいい遊び相手になってくれている。まゆにはいつも寂しい想いをさせていて申し訳ないと思っていたので、これは本当に大助かりだった。

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