■素敵な仕事場8(1)

半年が過ぎた。

「由真さんに手紙が届いてますよ。あなたのお父様からです」
そう言って森島は彼女に一通の手紙を手渡した。

「…おとう…さん?」
ぼんやりしながら無意識に森島から手紙を受け取り中を開き、手紙を見る。

「………あ…そっか…」
「どうしました?」
「私…父の借金返済の手助けがしたくてここに来たと言いましたよね?」
「ええ」
「今日…正確にはこの手紙を投函した日に借金返済が終わったから住み込みなんか辞めて帰ってきなさい。二人で暮らそうって…」
由真の声は妙に暗い。

「こんなに早く返済出来るなんて思わなかった…」
「ああ、あなたのミルクはとても好評でしたからね。そうですか。返済が終わりましたか。良かったですね。で、あなたは何を気にされているのですか?」
「だって…」
彼女はちらりと自分のパートナーに視線を移す。
「ここの仕事は住み込みじゃないと出来ないのでしょう?」
「そうですね。うちは住み込みが基本ですから」
「他の職に就いたら彼と離れなきゃいけないですよね?」
「ああ、彼なら由真さんが辞められたら新しいパートナーをすぐに募集しますよ。だからお気になさらずに」
その言葉に由真はぴくりと身体を振るわせた。

「新しいパートナー?そんなにすぐに他の人に懐くんですか?彼は私を一番…いえ、初めて懐いた人間だとそうおっしゃっていませんでした?」
「ええ、彼は今まであなたほど懐いた方はいらっしゃいません。それは本当です。ですが、あなたとお父様の生活の方が大事です。彼にきちんと説明をすればきっと分かってくれるでしょう。ですから…」
「…いやです!」
「由真さん?」
「私…私…彼から離れるなんて…いや…です。それに他の人が彼に…愛されるだなんて…考えたくない」
「………」
「それにきっと頭では分かってくれても彼も絶対に悲しいと思うんです。でなければ…私…」
彼女は涙を流しながらうつむいた。森島は彼女の肩にそっと手を置いた。

「…ではここに残れるようにあなたがお父様を説得されればいいんですよ」

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