■素敵な仕事場9(2)

おかしい…触手は彼女を嫌ってる様子がない。逆に愛おしささえ感じられるほど優しく接している。

森島はその不思議な現象の原因についてしばらく考え込んでいたが不意にある事に気が付き、顔を上げる。

「…ああ、そういう可能性がありますね。由真さん。彼はあなたを嫌ったのではないと思いますよ」
「…え?」
彼女はその言葉に泣くのを止めて森島を見た。

「…嫌って…ない?」
「一度きちんと確かめてみる事にしましょう。何しろ我が牧場で初めてのケースですからね」
「初めて?」
「とにかく泣くのはおよしなさい。彼はあなたを愛しているからこそそうしてるのですから」
「…え?」

◇ ・ ◇ ・ ◇

「…ごめんね。あなたは私が大事だからしないって言っていたのに信用しなくて」
先ほどとはうってかわり穏やかな表情の彼女は自分が強く握っていた箇所の蔦を優しく撫でる。

「さっきは痛かったよね。本当にごめんね」
謝罪の言葉をかけると触手はさわさわと彼女の頬を撫でた。

「許してくれるの?ありがとう。ても…もうわかったから…次は取り乱したりしないから…本当よ」
触手の揺らめきで彼女は意味をくみ取り照れた顔でそれにすり寄った。彼女を包み込んでいる蔦は壊れ物を抱くように彼女の全身を覆った

「それにしても驚いちゃった。…まさか赤ちゃんが出来てたなんて」

◇ ・ ◇ ・ ◇

森島はここの事をよく知っている医者を急ぎ呼び彼女を検査させた。その結果、彼女が懐妊をしている事が判明した。父親はもちろんパートナーである、この生物だ。

専門家の話では、もともとお互いがなじんでいく過程で女性の方の身体が変化をしていくのだそうだが、やはり異種族であるためかそれでも妊娠までするケースは少ない。しかし、ごくごくまれに非常に仲のいいカップルにはこういう事があるのだそうだ。

◇ ・ ◇ ・ ◇

「嬉しいですね。本当に心から結ばれた方達でないと子供は出来ないんですよ」
なかなか手に入らないこの生物の子が彼女の腹に宿った事を森島はひどく喜んだ。

「もちろん。産んでくださるでしょう?」
妊娠までしてこの生物の子を嫌がる女性はいない。そこまで身体が変化を遂げたという事は彼女もその生物を受け入れたと言う事なのだから。

「はい。初めてだから不安ですけど…でも、彼の子供だから…」
由真は顔を赤く染めながら側にいる愛しいパートナーの方を見た。さわさわと彼女をつつむ触手も喜んでいるかのように蔓を揺らした。

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